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勉強会デジタル教科書教材協議会(DiTT)では、有識者による勉強会を毎月開催しています。開催内容を一部ご紹介します。

2011年12月15日開催 

第17回 DiTT勉強会のご報告-藤村裕一氏・野上章氏-

    2011年12月15日、山王健保会館2階会議室にて、第17回デジタル教科書教材協議会勉強会を開催いたしました。第17回目は藤村 裕一氏(鳴門教育大学大学院学校教育研究科准教授)と野上 章氏(株式会社電通 ラジオ局ラジオ2部長)にご登壇頂きました。藤村 裕一氏には、「教育の視点からデジタル教科書・教材、教育クラウドの在り方を考える。」というテーマで、野上 章氏には「『音育』と電子教科書教材」」というテーマでお話を頂きました。
    以下は、発言要旨となります。


    -藤村 裕一氏 ご講演要旨-


    デジタル教科書・教材に関する学問分野には主に3つある。これまでは教育工学や「教科書論」から語られることが多かったのが,本日は,意図的にそれと異なる「教育の視点」からデジタル教科書・教材、教育クラウドの在り方を考えるということでお話したい。
    デジタル教科書・教材に関しては、教育学(教授論、教科教育学)が大変重要である。この教育学について本日は伝えたい。
    私は11年前に文科省予算で科学技術振興機構(JST)においてデジタル教材提供サイト「理科ねっとわーく」を作成して現場に提供したが、そこで苦い経験をしたことがある。それはデジタル教材を使用することにより、こちらの意図に反して,児童生徒を「わかったつもり」にさせてしまう授業が広がってしまったということである。提供した学習用デジタル教材は,実験・観察を模擬体験させ,解答まで提示するものであったため、子どもが課題に対して仮説を立てて実験や観察を行い,その結果を基に,「考える」ということが抜けていたのである。
    文科省は新学習指導要領で目指す授業像として、習得型・探求型・活用型の3つの授業類型を挙げている。これを教育学の「教授論」から見ると以下の4つの型となる。
     ※「→<  >」は,その学習によって「獲得されるもの」
     ※【 )=  型】は,対応する新学習指導要領の3類型
    はその授業で「獲得するもの」】
     1)教師主導の講義・実習・習熟型授業【1)=習得型】
       →基礎的・基本的な知識・技能
     2)教師主導の課題解決学習(学習課題・追究方法とも教師が)【2),3)=活用型】
       →知識・技能の基本的活用モデル
     3)児童生徒主体の課題解決学習(学習課題は教師が,追究方法は児童生徒が)
       →問題解決能力(思考力,判断力,表現力等)
     4)問題解決学習(学習問題,追究方法とも児童生徒が)【4)=探求型】
       →問題発見能力及び問題解決能力
    新学習指導要領においても,変化の激しい社会でも子どもたちが主体的に生きることができるように,「生きる力」を育成することをめざしている。この「生きる力」は,「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力」であり,4)がめざす授業像であり,それを支えるために1)で基礎的・基本的な知識・技能を身に付けることが求められていることがわかる。また,このことから,2),3)は4)をめざす育成課程での姿であることもわかる。
    指導者用デジタル教科書は,「教科書論」に基づき,教師が4)の問題解決学習を展開できるように作られているが,学習者用デジタル教科書を,指導者用デジタル教科書に準じて作成してしまうと,課題,追究方法,解決のすべてが提示されてしまうため,1)と2)にしか対応できず,大きな問題である。
    今後開発される学習者用デジタル教科書では,この問題を早急に解決する要がある。また,アメリカでは、TPCK(Technological Pedagogical Content Knowledge)という教育工学,教科内容学・方法学,教育学の三者に応じたデジタル教科書・教材などのICT活用の在り方に関する研究がすすめられている。そこでは,各教科ごとにデジタル教科書・教材の見せ方・活用方法を変えることの必要性を伝えている。
    日本においても,教科教育の専門家は,学習者用には,教材文が固定されている国語についてはデジタル教科書を,地域や児童生徒の実態に応じた多様な問題解決学習の実現をめざしている国語以外の教科ではデジタル教材を,希望している。
    なお,目的に合わせてデジタルとアナログの多様なメディアをメディアミックスさせて適切に活用することも大事である。イギリスは電子黒板のみであるが、韓国では電子黒板と黒板を両方使っている。授業はデジタルのみで完結するのではなく、時には紙の本・資料やノートへの書込み、子どもの考えを構造的に位置づけた板書の利用も,併せて行っていただきたい。そして、何よりも重要なのが実験・観察,見学・調査など実際の体験や活動なども盛り込んでいくということである。
    次に,教育クラウドの基本設計として,教師用デジタル教科書と学習用デジタル教科書及びその提供システムに望むことは以下の通りである。
    ・「授業支援システム」という位置づけで、初任者等の教師でもいい授業をできるように,教材研究の成果,支援のポイントなどを教科内容学・方法学,教育学の知見を適宜提供して,いい授業づくりを支援するデジタル教科書・教材提供システムとしてほしい。
    ・児童生徒の学習記録等を残す「統合型学習者情報データベース」があれば、児童生徒の学習記録を自動分析し,適切な支援を行うことができる。
    ・パソコンだけでなく,タブレット端末などにも対応可能なように,「マルチプラットフォーム対応」にしてほしい。
    ・校務支援システムとの連携機能がほしい。これにより,教師による手動入力の手間を省くと共に,授業改善,学校全体の教育改善につなげることができる。
    ・学習者用デジタル教科書・教材提供システムは,「学習支援システム」という位置づけで,ツールとしてだけでなく、教育改善のためにの校務支援システムとの連携機能や,児童生徒に場に応じた学習のポイント・アドバイスを提示する「学習アドバイザ機能」をつけてほしい。
    ・共同学習の場は,マルチメディア電子掲示板などのシステムを提供を行うだけでなく,学習促進や不適切な書き込み防止等のため,コーディネーターは必須である。
    ・家庭でも使わせたいので、廉価なネットワークサービスがほしい。
    ・デジカメやタブレット端末等で撮影した写真や動画なども取り込み,自動的にリサイズできる学習者用補助機能がほしい。
    ・校務系のセキュリティは必須であるが、学習用に関しては使い勝手を考慮したある程度の柔軟性も必要である。
    デジタル教科書は実証研究もすすみ、今後も普及していくと思うが、ICTを使うためでなく、よりよい教育のためにデジタル教科書・教材を活用していきたいと考えている。


    -野上 章氏 ご講演要旨-


    本日は「音育」という視点から、ラヂオえほんを紹介したい。
    現代は、共働きが増えて親と子供が接する機会が減ってしまったり、兄弟が少ない、近所づきあいがあまりないなどの子育ての環境が大きく変化してきている。人と接する時間が減る代わりに情報端末があふれてきている現代の環境において、創造力を育むためにどんなことができるのかを考えたところ、「音」に注目することにした。
    産学協働で音の研究をした。その研究では、音だけを聞いたグループと映像だけをみせたグループと比較して、音だけを聞いたグループのほうがいろんなイメージを作ることができたという結果となった。
    次に物語と教育という視点からお話すると、人は幼少期にいろんな物語と触れることで考え方・価値観に大変な影響を受けていると考えられる。つまり考え方を学ぶのは物語から・・・といえるのである。
    たとえば、巨人の星を観ていた世代が、大人になって努力・根性などで経済ピンチを乗り越えようとし、その考え方が経済動向に大きく反映しているのではないかとか、ガンダム世代が等身大の主人公がツールを使ってヒーローになるストーリーに影響を受けて、ITで起業する大きな流れにつながったのではなどが挙げられる。
    絵本も例外ではない。日本に古くから伝わる昔話には農耕中心の時代の生きる知恵が盛り込まれている。自然災害に備え、普段から我欲を出さず、お互いに助けあうという生きるヒントを与えているのだ。
    こういった物語を通じた教育、音で創造力を刺激するという観点から「ラヂオえほん」プロジェクトがスタートした。10人のクリエーターで構成され、子供の心を育てるためのオリジナルの絵本ストーリーをアーチストに読んでもらい、それをiPad絵本アプリ化するという活動をしている。
    この夏にはオリジナル3作品を提供した。例えばその中の一つは「ゴ・ゴ・ゴリラ」という作品で、サンプラザ中野にゴリラの歌を歌ってもらいながら、触るといろんな音やセリフが出るしかけになっている。もう一つの作品「小枝のマーシャ」は、絵本を読み進めながら物語に参加できるような、絵本の世界を想像させるアプリになっている。
    このアプリのリリースに合わせて既存の絵本と合わせて夏の30冊と題してラジオ番組を編成し、毎日既存の作品を読み聞かせ(音)で放送した。また、アプリと連携してWebに感想コメントを書き込めるようにしたところ、子供だけでなく、大人からもかなり反響があった。
    今後新作も予定しているが、アプリ化するときにはいろんな工夫をしている。まず、全部を普通にデジタル化すると創造力が養われないため、紙芝居的なアナログ場面も盛り込んだり、話の世界をより想像して楽しめるようなもの、その世界観に自分も参加できるような設計にしている。
    今後の展望として、この創造力がどう育まれているか、是非教育現場での実証実験を実現できればと考えており、このようなプロジェクトに関心のある方は是非一緒に活動してほしい。 

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