2016年07月25日開催
DiTTシンポジウム「デジタル教科書の位置づけはどうなる?~2020年導入実現に向けて」
【詳細レポート】
石戸)
これより、デジタル教科書教材協議会シンポジウム「デジタル教科書の位置づけはどうなる?2020年導入実現に向けて」を開催いたします。
私、司会を務めさせていただきます、デジタル教科書教材協議会の石戸と申します。よろしくお願い致します。
それでは、早速本日のパネリストをご紹介させていただきます。
向かって右側から、東北大学大学院情報科学研究科教授の堀田龍也さま、総務省情報流通行政局情報通信利用促進課課長の御厩祐司さま、DiTT参与、一般社団法人日本教育情報化振興会の片岡靖さま、光村図書出版株式会社専務取締役ICT事業本部長の黒川弘一さま、株式会社ベネッセホールディングスベネッセ教育総合研究所理事長の新井健一さま、DiTT専務理事、慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉です。以上のパネリストをお迎え致しまして、本日のシンポジウムを進めてまいりたいと思います。
それでは、まず、堀田先生に文部科学省「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」の中間報告について、お話いただきます。堀田先生よろしくお願いします。
堀田先生)
こんにちは。東北大学の堀田です。
私は、文部科学省の複数の委員会でお手伝いさせていただいておりますが、本日は「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」の座長という立場でこの検討会議の中間報告を解説させていただきたいと思います。この検討会議は位置づけを検討する会議であって、デジタル教科書をやるやらないという話ではなく、今後デジタル教科書の実現に向かうにあたり、法改正も含めてどんな課題があるか、その課題を整理する会議であります。
まず、小学校の授業の写真をお見せしますが、このように先生がICTを使って教えるというのが一般的です。こどもたちがICTを使うというのは、まだレアケースであり、だからこそマスコミにも頻繁に取り上げられるのですが、今後は少しずつ一般的になるかと思います。
先生の前に置いてあるのが、実物投影機ですが、こちらは小学校では特によく使われているICT機器です。カメラの下に置いたものを投影するものなのですが、一番投影されているのが教科書ですので、小学校では教師が見せたいものが教科書であるということははっきりしております。それは教科書が良質な教材であり、先生方も教科書を使って授業を進めていることの証明でもあります。こちらの地図の書き込みでもわかります通り、先生方が教科書に何か書き込みをして投影する、元々ある良質な情報に先生やこどもたちの考えを加えていくということを「アノテーション」といいますが、このアノテーションが頻繁に行われているということです。教科書は紙ですが、これがデジタル化されると便利だよねというので作られたのが指導者用デジタル教科書で、教科書会社からもすでに発売され、学校現場でも普及しています。今までデジタル教科書の多くは、先生が使う指導者用デジタル教科書を指しておりましたが、これは法律的にいうと教科書ではなく、提示用のデジタル教材であり、教科書会社が「デジタル教科書」という商品名をつけていたということになります。現在,検討すべきは学習者用デジタル教科書をどうするかということですが、学習者用デジタル教科書を理解するためには、今の紙の教科書について整理する必要が有るかと思いますので、ここで教科書について整理します。
義務教育で使用される教科書は、国が約411億円の予算を毎年投資して無償でこどもたちに提供しております。教科書は質を担保するために検定が行われております。
4年サイクルで教科書が検定されていき、教科書会社が対応できるように小・中・高と年度をずらして検定が行われております。話がもどり恐縮ですが、文部科学省の調査によると、ほぼすべての教科書会社が、一部の教科を除いて指導者用デジタル教科書を制作している状況であるということ、つまり学習者用デジタル教科書も技術的には制作できる状況にあるということが伺えます。文部科学省では、総務省と協力しておこなわれた「フューチャースクール」や「学びのイノベーション事業」などの実証研究を重ねるなかで、シミュレーション機能やさまざまな機能を付加することで、学校のインフラではうまく稼動しない、それによっていろいろなデメリットが発生するなどの課題が見えてきて、機能の在り方についても整理する必要があることがわかりました。そういうなかで、政府のさまざまな提言などに教科書をデジタル化すべきといった動きがみられるようになり、平成25年に閣議決定された第2期教育振興基本計画、また27年閣議決定された「日本再興戦略」改訂2015版にもデジタル教科書の制度化について書かれております。このような動きをうけて、これまでは文部科学省の生涯学習政策局の情報教育課が担当しておりましたが、教科書の検定なども関係してくるので、初等中等教育局の教科書課がハンドリングすることになり、「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」が発足されることとなったわけです。平成27年4月20日に発足したわけですが、メンバーはご覧のとおり、教科書会社の方、教育現場の方など実績のある方々にいろんな角度から検討いただくということで選ばれました。検討会議はこれまで8回の検討会議、意見交換会、現場の視察がございまして、計10回開催されました。青い文字はヒアリングで、すでに先んじて行っていらっしゃる専門家の方にお話を伺う会で業界の意見や先進例の意見などを伺いました。
赤い文字は、すでにタブレットを使用している荒川区の中学校などでどう使っているかを伺ったり、PTAの意見なども伺いました。6月2日の第8回会議で最終審議が行われ、6月16日に中間まとめ案を公開し、本日付でパブリックコメントがスタートし、8月12日までにコメントを受け付けることになっています。このコメントを受け付けると同時に、各関係機関からヒアリングを行いながら、冬を目処に最終まとめを行う予定でおります。
次にどんなことが議論されたかをかいつまんでお話したいと思います。まず、我が国では教科書の使用義務があります。ですから、無償で提供され、検定で質の担保を確保しながら全国津々浦々のこどもたちに行き渡るようになっているのであります。デジタル教科書の範囲をどこまでにするかというかとですが、タブレットごとデジタル教科書だと思っている人もいますし、OSは?ビューアは?などいろんな要素がありますが、内容が紙の教科書と同一であるコンテンツ部分をデジタル教科書とするということになりました。それにより教科書と内容が同じならば、改めて検定をしなおす必要はないということです。動画や画像などが見られる機能は、教科書ではなく教材という位置づけとなるため、検定をする必要がないということです。
また、委員の中で紙をなくすという意見はありませんでしたので、当面は紙と併用するということで紙でもデジタルでも教科書とみなすという形にしました。費用については、両方を無償措置にするのが理想なんですが、現状の予算では当面は両方無償は予算上困難なので、デジタル教科書についてはできるだけ安価に提供することを教科書会社とこれから調整することになるかと思います。費用負担を誰が行うかというと一定の割合で保護者が負担する可能性があり、その場合はとくに低所得の家庭には何らかの優遇措置が行わることになるかと思います。だれが制作するかについては、紙と同等のものということですので、紙の教科書を制作している教科書会社が制作することになろうかと思います。あと、PTAのアンケート調査をみると、紙じゃなくなるという不安が多く出ているため、こういう背景を踏まえ、紙からデジタルに急に移行するというのは避けましょうという結果になりました。そのほうが法改正をせずに進めることができるというメリットもあります。教科書に関する法律はたくさんありますので、それをすべて改正していたら、長い時間がかかりますので、それは避けたいので、まずは紙と同じ内容のデジタル教科書で授業をおこない、教科書と同じ内容であれば使用義務は達成しているとみなされるので、問題なくデジタル教科書を使うことができるわけです。そうすると単元によっては紙がよい、デジタルがよいという選択肢があったり、この学年ではデジタルが良いなどといったことが今後始まるのではないかと思います。そうなった時に多くの人がデジタルを選ぶ、つまりデジタル教科書が中心になっていくのではないか、つまりそういう土壌を今作ったということになります。すでに業界団体ではこのような動きが始まっていて、複数の教科書会社で立ち上げたCoNETSなどがあります。この団体の目的は、これまで複数の教科書会社が作成した教科ごとのデジタル教科書というのはインタフェースが違っており、使う側も提供する側もコストなどがかかるため、インタフェースは標準化しましょうという目的で設立された民間団体で、教科書会社はコンテンツを中心に開発し、共通のビューアをつかって見られるようにして、そのビューアがいろんなOSに対応することができればよいのではないかということで、すでに業界標準として始まっているものです。国が検討したものも結果的には概ねこれに近いものとなりました。2020年を目処に教科書がデジタル化されるであろうと思われますが、一番の課題となるのはすべてのこどもたちにデジタル教科書を使うためのタブレット端末が提供されているのかということです。これは自治体の教育委員会が予算化して配布できるかということですが、自治体によってバラつきがかなりあります。グラフでみてもわかります通り、現在ICTは児童生徒平均6.4人に1台の割合となっております。現在の国の目標は3.6人に1台、最終的には1人1台を目標としているのですが、これが現状です。ですがグラフも見てわかりますとおり、実はすでに国の目標をクリアしている自治体もたくさんある一方で、まったく達成していない自治体もあり、そこが足をひっぱっており、平均値がこのようになっているわけです。全くやっていないところは今後おそらく大変だろうと思いますが、残りの4年の間にどれだけ整備が進むかがポイントになろうかと思います。もうひとつ、これは文部科学省が富士通総研に依頼して調査したものなのですが、教育委員会に教育の情報化の専門のセクションがあるかというとほとんどないのが現状で、頻繁に担当者が変わるという中で、本当に整備がきちんと行われるのかというのが課題になります。かと言って、専門のセクションをすべての教育委員会に置くというのも難しいですし、人事については自治体ごとの問題ですので、国が口をだすことはできないのが実情です。最後に日本再興戦略2016についてですが、これからは民間の力を取り入れていこうということが書かれています。現在中教審の検討している学習指導要領の中にも「社会に開かれた教育課程」というのがキーワードの一つで、これは、教育の情報化に限らず、学校教育を学校の教員だけではなく、外部から多様な人の意見を取り入れて考えていこうという動きがみられています。日本再興戦略の中では、文部科学省を中心に経済産業省や総務省が連携して、IT関連の企業やベンチャー等で構成される官民コンソーシアムを設立し、官民連携による取組を開始するということが書かれており、私としましてもこういう取組に期待をしております。パブリックコメントで意見をいただきましたら、法改正が必要な部分は法律の専門家にお願いする、たとえば著作権であれば文化庁へお願いするといったことが、今後の検討会議の役割になるかと思います。以上でございます。
石戸) ありがとうございました。皆さんが伺いたかったことが概ねここで集約されていたかと思いますが、堀田先生のプレゼンテーションを元に議論させていただきます。まずはじめに堀田先生のプレゼンを受けまして、一言ずつコメントを頂きたいと思いますが、CoNETSのメンバーでもあり、文部科学省の本会議の委員でもいらっしゃる黒川さん、いかがでしょうか?
黒川さん)
よく、ここまできたなという思いと、さあこれからだという思いでおります。今日お集まりの皆さんは先生方を始め業界団体の方が多くいらっしゃるかと思いますが、共通の課題を与えられたわけですので、ご一緒に考えていただければと思います。
スライドで説明させていただきますが、デジタル教科書の概念が変わってきたということを皆さんにご理解いただきながら、進めていきたいと思います。中間まとめで、デジタル教科書の紙面の部分が検定の範囲内にはいり、特別な教材としての位置づけとなること、いよいよ2020年以降はデジタル化された教科書が授業で活用されることになるということは、大変大きいことです。
一方で、デジタル教材、電子書籍、学習アプリや電子書籍などとデジタル教科書がシングル・サイン・オンで繋がったり、コード・ID等によって連携したり、学習記録の保存・活用を考えたりするためにも、まず、コンテンツ・ビューア等の規格・機能の標準化を進めていかなければならない。現時点のままでは、全国3万校ある小中学校のうちのおそらく1%くらいしか進んでいかないと思いますので、まずはプラットフォームを作るということを皆さんとやっていかなければならないと思っております。
石戸) ありがとうございます。では同じく本会議の委員である新井さんいかがでしょうか?
新井さん) デジタル教科書の議論の時によく耳にするのは、デジタル教科書というのは音声や動画を含めたものをイメージしている方が大勢いらっしゃいまして、紙と同じなんですか?という疑問を持つ方がいらっしゃるんですが、先程黒川さんからもお話があったようにデジタル教科書とデジタル教材が一体化して動くことがこれから先大事になっていくと思うんですね。音声や動画は教科書として位置づけられないだけであって、このデジタル教科書と教材が一体化して動くという仕組みをどう作るかが私たちの課題であります。もう一つは環境整備です。今の第2期教育振興基本計画が達成されても使える環境にはならないので、使える環境にもっていくために第3期教育振興基本計画に何を盛り込むかが現在の課題となっております。また後からの議論になるかと思いますが、著作権が担保されないとデジタル教科書と教材がうまく連携して動くことができないと思いますのでこの著作権の議論は大変重要だと思います。
石戸) ありがとうございます。DiTTでは、本会議の方向性に関して、今日とほぼ同じメンバーで公開検討会という名のパネルディスカッションを行い、そこでの議論の内容と概ね同じ方針になったのではないかと思います。その際にも議論にしたところですが、このデジタル教科書の定義だけを見るとデジタル教科書というのが小さなイメージで捉えられがちですが、最終的にはデジタル教科書とデジタル教材がシームレスに使える環境を作ることによってこどもたちの学びの環境を豊かにしていくというのがゴールであることを忘れないように議論していきたいと思っています。その点に関して、片岡さんいかがでしょうか?
片岡さん) 黒川さんがお話されていましたが、連携というのは大変重要になってくるかと思います。技術的なところもそうですが、ユーザーエクスペリエンスというのをきちんと考えていかないと、今のICTというのが先生方に負担をかけて使っていただいているというのがあるんですが、2020年にはユーザーエクスペリエンスをきちんと考えた上でどう実現してくかが重要になってくると思います。
石戸) ありがとうございます。では御厩さん、総務省と文部科学省は連携しながら、そして役割分担しながら教育の情報化の推進を担ってきましたが、今回の文部科学省の方針を受けて、総務省としていかがでしょうか?
御厩さん) 堀田先生のご報告をお聞きし、総務省としてもしっかり取り組んでいかなければならないと、改めて思いました。また、ここまできましたのも、やはりDiTTさんの貢献が大きく、関係者の皆様方を心より尊敬しております。さて、堀田先生から、整備が進んでない自治体があり、二極化しているというお話がありました。総務省が持っている自治体財政のデータと、文部科学省が持っているICT整備のデータをクロスして分析したところ、「財政力格差が整備格差につながっている」という説にはエビデンスがないことがわかりました。例えば、日本で一番財政力指数の高い村では、PCは子供8.0人に1台で、電子黒板がある学校は1校もありません。全体的な傾向を見ても、財政力指数が高い自治体ほど整備が進んでいない状況となっています。富裕な自治体は、将来に関する危機感が薄く、学校も今のままでいい、ICTを入れる必要はない、と考えているのかもしれません。何れにせよ、首長の意識によるところが大きいのだと思いますが、首長や議会の理解を促すためにも、学校へのICT整備について、新たに選挙権を得た10代の若者をはじめ、多くの住民から声があがってくることを期待しています。
石戸) ありがとうございます。最近は自治体間格差が広がりつつあるというのはよく指摘される課題であります。DiTTのシンポジウムにもICT整備に積極的な首長さんに何度か登壇していただきました。その際、皆さん口を揃えておっしゃるのが、首長がやる気になれば実現できるということでした。ですので、世論を高めていくこと、そして首長さんに価値を認めてもらうということもDiTTとしては大事な役割であると位置づけています。みなさんからコメントいただきましたが、先ほども申し上げました通り、堀田先生の資料を改めてみると、デジタル教科書の構成要素はコンテンツのみとする、改めて検討を経る必要はない、紙と同じ内容にするなど、基本的にはDiTTシンポジウムで公開の場で議論していたことと概ね同じ方向なのかなと思います。ただ1点違うところは、デジタル教科書も無償措置にすることは予算的に難しいというところです。DiTTとしては是非無償措置をお願いしたいと思っており、超党派会議でも無償化せよという声があがっています。中村さん、いかがでしょうか?
中村) ここまできたのは、すべて堀田先生のおかげです。6年前にDiTTを立ち上げたときは、デジタル教科書を正規の教科書にするなんてありえないという空気でした。そして現在、デジタル教科書を正規化するのかどうかが問われていてやれそうだというところまできたというのが一番のポイントだと思います。どのように設計するのかといった細かい議論はこれから行われるのかと思うのですが、本来は音や映像も使ったデジタル環境を豊かに使えるようにするということが目標なんですが、現時点では、「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」で取りまとめられた中間報告の内容が落としどころではないかと思います。ですが、費用負担のところは教科書となるからには無償にすべきだよねというが我々の意見なんですが、この中間とりまとめの中で無償は困難であるというのは、おそらく検討会議の意見というよりも文部科学省の立場での今の難しさを物語っているのではないかと思います。ですが、我々としてはこれからも無償措置すべきだということは言っていくべきだと思いますし、超党派の国会議員の先生方も同意見ですので、この運動はこれからも続けていかなければならないと思っております。それは文部科学省だけでなく、財務省にも声を上げて、教育情報化だけでなく日本の教育にもっと予算をつけましょうよという声を民間を含めて盛り上げるべきだと思います。さらに著作権についても、もっと前に進めようという運動をしなければならないと思っております。
石戸) ありがとうございます。無償化されるのか否か、されないとしてもどう低廉化するのか、低所得者の方々に対してどういう措置をするのかなどもう少し議論が必要でないかと思います。また著作権については、まだ整理ができていません。その点に関しては知財本部でも議論がなされていると聞いていますが、知財本部の委員会の座長をしていらっしゃる中村さんからそのあたり伺えますでしょうか?
中村) 状況を共有しますとデジタル教科書の位置づけと著作権の問題というのはセットとして考えられていて、政府で最初に声が上がったのが4年前の2012年の知財計画2012でした。そこではデジタル教科書の位置づけと著作権の位置づけを検討しますということが書かれていたのですが、先月取りまとめられた知財計画では、デジタル教科書の位置づけについては今年度中に必要な措置を講ずるというが明記されています。そのままパブコメをへて最終報告までもっていければ、来年の通常国会の法律改正ででてくるのはないかと思います。同時に知財計画では著作権制度の在り方についても速やかに結論を得るということが書かれていて、これも早くやれというのが内閣から出されていて、ここから先は知財本部ではなく文化庁の著作権審議会の管轄です。文化審議会で議論が始まっていまして私も参加していますが、今年度の著作権制度の重要事項のひとつとして教育の情報化が掲げられています。今議論されているのはe-learningなどの著作権問題でして、デジタル教科書を作るときの著作権の扱い、許諾なしに教材を作れるようにするというのはまだ議論が始まっていない状況です。理由を聞くと、堀田座長の進める検討会議がまだ中間報告であるからだということで、最終報告で結論が出たらやりましょうという動きになっています。私の勝手な見通しで言うと、紙の教科書の範囲と同じ範囲でデジタル教科書を認めるということになれば、著作権制度もそれに合わせて結論を出して、来年の通常国会に同時に出すというのがあるべき姿だと思いますし、それは主張していきたいと思っております。そして、そのためには検討会議の最終報告を冬できるだけ早い時期にまとめてもらい、著作権も合わせて早くやれという運動をみんなでやりたいと思っております。ただ、それでも音声とか映像の著作権はどうするのかという重たい課題は残るという状況であります。
石戸) ずっと難関だろうと言われていた著作権の問題も、今回の文部科学省の中間報告をふまえて、動きだす兆しが見えてきたということですよね。
中村) はい、私が想定していたよりも早いと感じています。
石戸) 文部科学省の検討会議の最終報告が早ければ早いほどいいという話がありましたけど、堀田先生いかがですか?
堀田先生) ぼく一人で作っているわけでないので、なんとも言い方難しいんですが、冬というのは余裕を持って言ったんですが、中教審の最終答申が冬の見通しなのでそれよりは前に出しておきたいという動きがあります。デジタル教科書の最終報告が出たら、著作権分科会が動いてもらえるように 連携はとっているということです。著作権はとても重要なことで、先程御厩課長がおっしゃったように、財政力が高いとか、うちはお金がないから入れられないということを耳にしますが、実際はお金がない自治体が導入しているというのが現実に多くあるんです。導入する、しないというのは首長次第というのは、ある県の例をとっても同様の結果が出ています。つまりこれは教育の情報化に対する理解の問題であると思っております。とはいえ、お金の問題を上げてくるのは、一定の費用が掛かってしまうからであって、コストダウンはある程度したいと考えると、著作権をクリアするための費用が大きなコストになっていますのでそこは考えなければならない。なので、新井さんからも先程話がありましたが、第3期教育基本振興計画をどう書くかというのは、大変重要な問題となっています。教材は教材整備指針というのがあったりしますが、ICTについては整備指針というのがないので、そういう指針を作ってはどうかという動きを文部科学省ではしております。その指針に著作権のことに触れたり、また先程黒川さんのお話にもあったようにいろんな電子教材や電子書籍と連動していくことを考えると、ファイル形式をどうするかといった技術的な話も非常に重要であり、また学習指導要領も構造化された上でコード化されて自動リンクできればよいなどの検討がなされており標準化に向かってコストダウンに向かう動きとなっています。たぶんそういう技術的な見通しを前提に、文化審議会の著作権分科会は検討されると思いますし、そういった動きがいろんなところでみられるようになると、先程片岡さんがおっしゃったようなユーザーエクスペリエンスという問題も解決していくだろうと思います。その一番根幹はデジタルでも教科書と認めるよということ、そのかわり範囲を狭くしてそれによって検定の手間を今と同じにして、それによって残念ながら予算的に無償措置は当面難しいけども、それでも動き出せばこれは意味があるから無償にしたほうがいいんじゃないかという気運も作れるだろうということで、ギリギリの判断で今回の報告をまとめたというのが本音です。
石戸) ありがとうございます。著作権のところは一番影響があるのは教科書会社さんだと思いますが、黒川さんコメントありますか?
黒川さん)
スライドに示すとおり、推進に向けての課題を3つ出します。
まず、「法整備」については、著作権法の権利制限規定の見直しというのはどうしてもやらないと前に進めません。紙の教科書については制度上、低廉な価格で発行するために、その一つとして、著作権法第35条によって著作権の制限が大変緩やかになっているということがあります。この法律をデジタル教科書までちゃんと及ぼすようにしなければならない。ただ、教材まで及ぶかというとすごく難しい問題だと思います。ですので、法整備は大変時間がかかりますので、段階を踏んで着実にやっていかなければならないのかなと思います。とはいうものの法律は整備されても、各著作権者や団体の合意プロセスがあり、実は簡単ではありません。学習者用デジタル教科書は複数の教科書会社から発行されていますが、今は過渡期ということで認めていただいています。今後、著作権者、利用者それぞれの利害関係を考えると、こどもたち一人一人のアカウントでいくのか、それとも端末ごとのアカウントでいくのかといった問題があります。著作権団体はどうしてもユーザーアカウント単位なので、このあたりのコストの問題をどうクリアにするか、使用期間の制限をどうするのかなど非常に大きな問題があります。ということで、非常に時間がかかるため、小学校がスタートする2020年は、かなり見切り発車になるだろうと思います。教科書会社としては法整備が完全でなくても進めていくしかなく、配信に関しては許諾が取れないものは表示できないということになりますが、それでも、まずは小学校でスタートして、中学校、高校と進めていき、高校がスタートする2022年までにはある程度答えが見えてくるというあたりが着地点なのかなと考えます。
あと、「標準化」に関しては、これに関わる業界団体全体で構築していく必要があると思います。それと、こどもたちにきちんと教科書を届けるという義務があります。配信や受発注についてITを使えば簡単だよとよく言われますが、これが結構大変です。こうした問題を解決するためのコンソーシアムが必要だと考えていますが、現時点ではそういうところまではたどり着いておりません。
最後に「コスト、インフラ」ですが、これはそれぞれの自治体の整備の進捗度によります。また、さまざまな環境に対応するソフトの開発というのも大変です。学校現場は、教育クラウド・プラットフォームだけでは最初はうまく機能しないでしょうし、デジタル教科書の導入や更新に当たってもいろいろケアしなければならないので、きちんとこのあたりを考えないといけないと思います。はじめからすべて完璧ある必要はありませんが、着実に答えを見つけていきたいと思っています。ただ、コスト面では、市場の情勢が大変不透明で、ユーザーがどれくらいいるのか正直わからない中、国からは価格設定が任されていく方向ですので、しっかりと検討を進めていかなければならないと考えております。
石戸) ありがとうございます。以前からDiTTでも教科書だけでなく教材部分の著作権をどうするかという議論をしてきました。例えば著作権処理機構みたいなものを作る必要があるのではないか、ということですが、その議論はまた別の機会にまわし、残りの課題について議論したいと思います。DiTTでは、いつも3つの柱、つまり、インフラ・ネットワーク環境の整備、コンテンツの整備、端末の整備について議論をしてきました。今回の制度改正は端末に関わる話になるかと思いますが、先程堀田先生がおっしゃったように2020年にはすべてのこどもたちが端末を使えるようにするためには、ネットワークの整備は重要な課題です。先日も、総務省が2020年までにすべての学校にWiFi環境を整えるというニュースが出ていましたが、どういう予算措置でどのように実行していくのかというのを御厩さんに説明いただければと思います。
御厩さん) 高市総務大臣が、4月の産業競争力会議で、総務省の今後の取組構想を3点にまとめて発表しました。一つ目はクラウド上のプラットフォームを普及する。二つ目はその基盤となるWi-Fi整備を支援する。三つ目は体験機会提供等の全国キャラバンを展開する、という構想です。キャラバンについては、実際に自治体を回って、アウトリーチ型の普及活動をしていくというものです。特に、クラウドやWi-Fiをセキュリティ上入れられないとしている自治体もありますし、首長の意識の問題もありますので、実際に自治体を回って、子供や教員だけでなく、首長や議員の方々にもICT教育を体験していただく機会を設けていきたいと考えています。さて、Wi-Fiについてですが、文部科学省の調査によると、普通教室の23.5%にしか入っていなという結果が出ています。基本的には、学校教育用の設備ですので、整備するのは設置者の役割ですし、それを支援していくのは文部科学省の役割です。しかし、総務省としても、学校へのWiFi整備率を100%に上げていきたいということで、どのように支援していけばいいのか、検討してきました。そこで出てきたのが、防災目的を兼ねた整備を支援していくというアイデアです。例えば、総務省で設けている「電波政策2020懇談会」においても、次の3年間の電波利用料の使途を検討する中で、パブリックコメントを募集したところ、DiTTさんからも、教育の情報化のための環境整備に使うべきではないか、という力強いご意見をいただきました。最終的には、7月15日の報告書に「生徒1人1台の情報端末による教育の本格展開に向けた基盤ネットワークとして無線LAN環境の整備が求められている。(中略)2020年までに主要な観光拠点、防災拠点、教育拠点において、セキュアで利便性の高い超高速・大容量の公衆無線LAN環境が整備されることを目指し、地方公共団体や第三セクターがWi-Fi環境が未整備の防災拠点等に無線アクセス装置、制御装置、電源設備、伝送路設備等を整備するのに必要な費用の一部補助を実施する」と明記されました。学校の9割以上は地域の避難所になっていますので、2020年までに、防災用を兼ねた学校のWi-Fi整備を進めます。余談ですが、東日本大震災の当時と比べて、現在は個人の方のやり取りするデータ量が8倍に増加しています。スマホで動画を見たりするといったケースなどが増えています。実際、熊本地震の発生直後から5日間で、NHKニュースのインターネット同時配信へのアクセスが約500万件あったという結果もあり、これからの避難所にはWi-Fi環境がきちんと整備されている必要があると考えております。平時は教育に、緊急時は開放して避難者に活用いただくということで、防災力強化と教育ICT環境整備をあわせて加速してまいります。
中村) 御厩さん、その電波利用料を学校の情報化に使うというのは、もう決定事項ですか?
御厩さん) 省内的には、防災目的を兼ねて学校のWi-Fi整備に電波利用料を充てていく方針は固まっています。対外的には、今後、概算要求を行い、予算編成、国会審議を経て最終的に決まることになります。
中村) ではそれは財務省がいいよと言って法律を改正することになるんですか?
御厩さん) 法律を改正する必要があるかどうかは、現在、技術的な検討をしております。基本的な考え方は、防災拠点においてトラフィックが混雑するのをWi-Fiでオフロードしていく、そのためにWi-Fi整備を支援していく、平時にもそれを有効に活用しいただく、という流れの中に学校も位置づけるということです。
石戸)
電波利用料を教育の情報化に使って頂きたいと提案してきましたので、非常に嬉しい報告です。教育のICTインフラ整備が防災の活用にもつながるというのはそれこそレガシーではないかと思いますので、2020年までに是非達成していただきたいなと思います。
新井さん、いかがでしょうか?
新井さん) DiTTの活動が評価されて大変嬉しいです。先程も申し上げましたが、環境整備は非常に大事で総務省が率先してこういうことをやっていただくのは大変いいことだと思います。
石戸) ちなみにネットワーク環境を整備することは必要ですが、それはWi-Fiでいくのでしょうか?最近ですと格安スマホなども出てきておりますし、そのあたりどうなんでしょうか?
御厩さん) これから実証してみたいと思っていることの一つが、セルラーとWi-Fiをどのようにミックスしていけば効果的なのか、ということです。今、学校現場からは、家庭での活用も含めてセルラー端末を利用したいという声がかなり届いておりますので、それと防災の観点からのW-Fi整備をどのようにミックスしていけば良いモデルが作れるのか、検討してみたいと考えております。
中村) これも大きい話ですね。教材を整備するとか、端末を整備するとかというのは我々が主張してきたことですが、ネットワークをどうするかというのは全体の投資規模からすると桁が違うくらい大きくて、それが最後、いや実は最初だったかもしれない大きな課題であり、そんな中でこういう動きが出てきたというのは非常に大きな話で、つまり端末整備は自治体の仕事として取り組んでいただき、教科書のところは文部科学省に動いてもらって制度化してもらわなければならない、そして残るネットワークのところを総務省がどうするのかなと思ったところに、先程の電波利用料を使うという話もありましたし、Wi-Fiだけでなくセルラーだとか格安スマホをどうミックスさせるかといった話が進んでいるということでまさに全体の弾みが出てきたなと思っております。自治体、文部科学省、総務省それぞれ皆さんきちんと仕事をされているんだなという感じがしております。
石戸) 大きな転換期を迎えるかもしれない話ですので深掘りしたいですが、その他の課題の話も残っておりますので、教育クラウド・プラットフォームの話も続いてよろしいでしょうか?
御厩さん) 総務省が実証中の教育クラウド・プラットフォームは、「デジタル教材」の流通・活用を円滑にしていく基盤となるものです。政府の成長戦略の中でも、「今後の初等中等教育の情報化を進めていく上で、教育コンテンツの活用やこどもの学習情報などをクラウド上で管理・共有していくことが有効であり、全国の学校現場に普及させる必要がある」と明記されました。今、実証は3年目に入りましたけれども、構築しているシステムは、校内でも校外でも家庭でも、スマホでもPCでも、OSを選ばず、ブラウザベースで使えます。また、1回のログインですべての機能が利用可能なシングルサインオンの機能も備えています。豊富なデジタル教材を利用でき、そこから得られた利用ログも活用できます。さらには著作権の問題もありますが、自作教材の共有活用もできる、そういうプラットフォームになっております。このプラットフォームをご活用いただいている学校の例を一つ紹介したいと思います。イスタンブル日本人学校の例です。ご存知のとおり、現地ではテロやクーデターが起きるなど治安が悪化しており、休校になることも多く、日本に一時帰国する子供も出ています。しかし、普段から、一人一台体制で、家庭を含めてクラウドを利用してきましたので、休校になっても、先生の指示によって教材に取り組み、先生もその状況がリアルタイムでわかります。SNSで緊急連絡を迅速、確実に行っています。一人一台体制にクラウドが加わることにより、学校の危機管理、非常時の教育活動の継続にも役に立つことが図らずも実証されたわけです。東日本大震災でも、教材が流されたとか、学校のサーバーが使えなくなったということがありましたけれども、このような点からも、学校へのクラウドサービスの普及が必要です。学校向けのクラウドサービスもいろいろと出てきており、たとえばスタディサプリ、Classi、StudyLinkZなどです。これらには、教材の質や価格で競争していただいて、安価で質の高い教材を流通させていただきたいと思っております。しかし、情報連携やシングルサインオンなどの技術面や、普及面で協調できる部分も多くあるということで、総務省やICT CONNECT21が音頭取りをしまして、先月、「教育クラウド・プラットフォーム協議会」という主要な事業者が一堂に会する協議会を作りました。デジタル教材も、民間で大同団結して、デジタル教科書のプラットフォームとも連携していきたい、デジタル教科書と教材をシームレスに、使い勝手よく連携させていきたいと考えております。オープンな協議会ですので、他の事業者の皆さんにもご参画いただきたいと思っております。
石戸) ありがとうございます。こちらICT CONNECT21が事務局ということで、事務局長の片岡さん、具体的にどういう活動をどういうスケジュールでやっていくのか、教えていただけますか?
片岡さん) はい、先程御厩課長からお話がありました企業で構成されており、これからいろんなところと連携しながら進めていきたいと思っておりますが、まさに総務省さんとどういう形で進めていくか調整しているところであります。オープンな協議会ですので、準備が整いましたら、皆さまに情報提供していきたいと思っております。
石戸) 他の教材を持っている企業さんも皆さん参加できるということですよね。
片岡さん) 先程黒川さんからもお話がありましたが、標準化というのは総務省、文部科学省、経済産業省さんも含めて連携していきたいと思っておりますし、ICT CONNECT21としては、DiTTも含めていろんな団体との連携もしながら引き続き進めていきたいと考えております。
石戸) ここには、Classiとしてベネッセさんが関わっているかと思いますが、新井さん、参画の狙いなどあるのでしょうか?
新井さん) 民間業者間の競争、協調でこういった共通のプラットフォームを作っていくという趣旨ですので、賛同して参加しているわけです。ただ、自治体はクラウドに対して、なんとなく抵抗感などがあるようですので、誤解もあったりしているので、そういったものを払拭していき、むしろクラウドの方が安全で安価に進めることができるということをご理解いただければと思っております。
片岡さん) IPA(情報処理推進機構)さんもそのあたりは調査されておりまして、無線LANを手放しで安全とは言えませんが、適切な処置をすれば安全に使えるということも言われていますので、経済産業省と連携してうまくやっていければなと思っております。
石戸) ありがとうございます。クラウドに対する漠然とした不安感もありますので、どのように安全に安心して使える環境を整えるかということも大事かと思います。また、個人情報保護法などもあり条例改正しないと導入できない自治体もある実態がありますので、DiTTして、条例改正を今年度大きな一つのテーマとして掲げ、次回以降のシンポジウムで、さらに議論したいと思います。このインフラの整備とWi-Fiの整備、教育クラウド・プラットフォームについて堀田先生コメントありますでしょうか?
堀田先生) はい、今の話すべて賛成する気持ちで聞いています。特にネットワークについてはどこかが主導で進めないといけないと思っておりまして、それを総務省さんがうまく電波利用料を防災と絡めてやっていただけるというのは、大変力強いと思います。一方でインフラについては何を心配しているかというと、インフラがないと指導経験が先生に生まれないんですね。たとえばICTが入っていないところは、先生がICTの経験がないので発想がないんですね。このことが非常に問題になると思っておりまして、教師は使いやすいように導入されれば、みんな使うんですよ。だって便利だから。ですが、今は制約ががんじがらめで、そして何かあれば、バッシングされるので、そう考えると他にもやることはたくさんあるので、全体にやりたくないという空気になるんですね。先生の多忙感がなくならないにしても少しでも楽になるように、インフラが整備されデジタル教科書が入って、いつでも使いたい時に必要なものが使えるという環境にすることが実は先生たちを応援することになるし、そういう環境で授業をした先生は最初は抵抗感があっても、そのうち便利だなと思えば確信を持って使い始めるでしょうし、それが我が国の教育を変える一番の近道かなと思っていますので、インフラが入っても教師は使えないんじゃないかという論調で取り上げるのは止めてほしい、それは教師が使えないようなインフラ整備をしているからだということをわかってほしいと思います。
石戸) この件は、鶏が先か卵が先かという議論になりがちで、先生が使えないから入らない、入らないから使えないという議論が永遠と続いてしまうので、しばらくは、何かトラブルがあっても温かく見守るということも大切かなと思います。黒川さんの最初のスライドで出されていた3つの課題について、概ね議論してきましたが、いかがでしょうか?
黒川さん) そうですね。今紹介されていました民間業者さんの競争・協調というのが、今後のデジタル教科書の配信やプラットフォーム作りなど、大変大事かと思いますが、まだ道筋が見えていない中で、2020年実現を考えると、正直もう時間があまりないなと感じております。一方でここに出されているプレーヤーの方はコンシューマ系であったりデータ化を推進する企業であったりだと思いますが、学校市場のプレーヤーというのは紙ベースな企業が多くて教材を例にとっても大変いい教材が揃っている、教科書会社も底上げが必要で、ここまでの段階に行くまでにプロセスが必要だなと感じており、全力で進めていかなければならないと思った次第です。
石戸) ありがとうございます。中村さん、いかがでしょうか?
中村) クラウドはそれを使わせましょうという民間企業がたくさん出てきて、そこに横串をさして総務省が後押しをするという動きは大変良いことだと思っておりますが、我々DiTTとしては、提供側よりも利用側に関して、どのようにして使っていただけるかという仕事のほうが大きいかなと思っております。やはり先程から話にでているセキュリティのところ、佐賀の話もありますので、そういったことに手を打たなければならないんですが、仮に手を打って安全だとなっても安心だというところになるまで、5年10年かかるというのはこの業界で繰り返されたことです。ですので、安心だというところまでどうやって広げていけばいいかなと思っており、一つは総務省に頑張ってもらって自治体を説得してもらい、我々も一緒にやっていかなればならないと思っており、先程片岡さんがおっしゃったように経済産業省にも入ってもらって安全ですよということをきちんと示してもらいたいと思っております。これまではあまり経済産業省は関わっていない印象だったのですが、ネットの安全、セキュリティについては少し動いてもらいたいと思っており、シンポジウムにも是非出てきてもらいたいと思っております。
石戸) ICTに限らず、どんなものでも100%安全というのは難しいということを前提に考えなければならないと思いまが、それを社会全体の仕組みの中でカバーしていく方法を考えていかないといけないですね。
中村) リテラシー教育ですね。
石戸)
そうですね。リテラシー教育は必要だと思います。利用者の利活用の力を上げていくというのが最終的には社会全体の安全・安心につながっていくと思います。リテラシー教育の一環でもあるのが、今メディア等で盛り上がっているプログラミング教育ではないかと思います。文部科学省でもプログラミング教育の必修化に向けた検討会議がありましたが、その座長でもいらっしゃる堀田先生、いかがでしょうか?
堀田先生)
はい、こちらもついこの間報告を取りまとめたところですが、結論としては、小学校にプログラミング教育を正式な教科として入れましょうという話ではなく、また,よくプログラマ人口がたりないからじゃないかとか言われますが、そういうことでもありません。これから第4次産業革命だとか言われますけど、つまりどんな進路に行ってもICTを使わずにこなすということはおそらくできないし、ロボットやAIが出てきておりそれをうまく使いながら私たちは暮らしています。たとえばエアコンがうまく人にだけ反応して効いてくれるなどといったものがどういう仕組みでできているのかなど、そういったことを全く理解せずに社会に出していいのかという課題がある。プログラミング教育は中学、高校ではやりますが、小学校でも何かプログラミングをしてみる体験を通して、こうやってICTは動いているんだな、そういうものが周りにたくさんあるんだなということに気づいてもらう、そしてそれが面白いと思ったこどもには、もっと社会教育を含めて広げてもらうなど国としても次の学習指導要領の中でどこまでやれるかということを定めました。具体的にはプログラミングにふさわしい単元がある教科のところにその教科の目標と同時にプログラミングに関することを入れてもらうということをやってもらっています。 石戸)
私もCANVASという団体を通じて読み書きそろばんに並ぶこれからの時代の基礎教養としてのプログラミングを推進してきました。プログラミング「を」学ぶのではなく、プログラミング「で」学ぶという活動を14年間やってきたので、これまでの活動がそのまま文部科学省の報告書の言葉になったということを感慨深く思っています。総務省ではそれについて予算を付けましたよね。 御厩さん)
総務省では、今年度よりプログラミングに特化した事業を始めました。具体的には、事業者を公募しまして、クラウドに上げる教材を提供していただくとともに、地元の人達をプログラミング教育のメンターとして育てていただき、そのメンターが放課後や土日、長期休業期間中に子供対象のプログラミング講座を開催し、講座運営のノウハウを整理する、というモデル事業です。公募の結果、全国で11のプロジェクトを選びました。今、民間でもプログラミング教育が進んできていますが、教室や講座の数で言うと、関東に過半数が集中し、関東と近畿に70%以上が集中しています。プログラミング教育を受けるという機会は、地域で大きな格差があるわけです。このような中、クラウドに教材を整備してどこでも使っていただけるようにしよう、地元の方をメンターとして育成して地域にリアルな学びの場を作っていこうとしています。11プロジェクトのうち、一つだけ紹介させていただきます。四国から選ばれたプロジェクトです。テレワークで有名な徳島県神山町の小学校で、プログラミングを使って、郷土芸能である阿波人形浄瑠璃の人形に動きを付けるという教材を開発し、最先端のプログラミングで、昔ながらの郷土芸能を学ぼう、というプロジェクトです。指導者はテレワークのサテライトオフィスの従業員です。このような特色あるプロジェクトを、かなり多くの提案の中から選びました。今後、可能であれば、選ばれなかったところも含め、補正予算で追加実施していきたいと考えております。プログラミング教育の熱を環境整備にもつなげていきたい、プログラミング教育のユースケースとあわせて環境整備を進めていきたいと考えております。 石戸)
DiTTとしては、プログラミングについてたくさん議論してきたわけではないのですが、今後少し検討していく必要があるのかなと思いますが、中村さんいかがでしょうか? 中村)
DiTTとしてもやらなければならない案件の一つだと思っております。プログラミング学習を広げていくためにもそのインフラとして、端末の整備、ネットワークの整備、教材も含め一体となって進めていかなければならないと考えておりますが、プログラミングについては思っていた以上に早く導入が進んだなと感じており、これも堀田先生のおかげです。 堀田先生)
大事なことは、次の学習指導要領で社会に開かれた教育課程をスローガンとして掲げていることと、先生がプログラミングを教えるのは難しいというのは、皆さんすでにお気づきかと思いますがつまり社会の力をどうやって学校に教育してもらうか、教育課程内ではやるけれどもそれ以外でどうするかということ、どうやってつないでいくかというがこれからの非常に大きな課題であり、関東・近畿以外の地域でも確実に行える仕組みをどうやって作るかということが大きな課題となっています。 石戸)
私たちもPEGというプロジェクトを15地域で行ってきましたが、それらの成果を公開する形でお役に立てればと思っています。いま、民間企業も、プログラミングに関する塾等を立ち上げていらっしゃいますが、そういった動きについて新井さんいかがでしょうか? 新井さん)
以前レゴロゴブームというのがありましたが、レゴブロックをロゴという言語で動かすというプログラミングで、そのときは学習指導要領ではあまり取り上げられませんでしたが、今回はスケールもちがうので、ちゃんと取り上げられたんだなと思います。欧州などでもプログラミングは大変盛んで、先日北米のカンファレンスでキーノートのスピーカが話終わったあとに、今日友達連れてきたんだけどいいかなと言って、出てきたのがR2D2なんですよ。たぶん本物だと思うんですが、あういうのをみると単純にやってみたいなと思いますよ。日本の先生は小学校で英語もやらなければならないですが、英語は経験しているからリアルな苦手感がある、しかしプログラミングはやっていないので、漠然とした苦手感がある。ですが、USのカンファレンスなどで先生方に聞くと、いや自分たちも不安でしょうがないとおっしゃっていて、でもこどもができるからやらせればいいと割り切ってやっている。日本も先程堀田先生がおっしゃったように社会に開かれた教育課程ということを考えると、地域の力をもっと使えばみんなで協力してやっていくことが必要なんじゃないかなと思います。 石戸)
私たちもいろんな学校でプログラミングの実践をしていると、こどもたちがこどもたちに教えるというスパイラルが出来始めている学校があって、それでいいんじゃないか、むしろ教え合い、学び合いというのがプログラミングを通じて実現できるのではないかとポジティブにとらえています。イギリスは小学校1年でプログラミング教育が必修化していて、そのナショナルカリキュラムを作った方と先日アメリカでのカンファレンスでご一緒したのですが、お昼を食べながら、その方に、「日本は準備期間が4年間もあっていいね。私たちは18ヶ月で準備したんだから」と言われました。4年間猶予があるということですので、DiTTとしても何らかの後押しができればいいなと思います。というわけでみなさん、何か言い残したことありませんでしょうか? 中村)
今日の話を聞いていて、さてこれからDiTTどうしようかなという思いに至りました。総務省、文部科学省、自治体、民間も動き出している中で、日本再興戦略の中でもコンソーシアムを作るということですが、DiTTもそのために作ったものですので、これからもきちんと役割を果たしていきたいと考えておりまして、DiTTが当初やろうとしていたデジタル教科書の正規化、端末の整備などがある程度見えてきたところで、じゃこれから何をしなければならないかということを皆さんともう一度議論していきたい。それはプログラミングもあるし、SNSをどう使うか、その先のIOT、AI、あるいはドローンといったこともありますので、これから10年後20年後の学校教育をどうしていくかというビジョンみたいなものをもう一度皆さんと考える時期に来ているのかなと思っております。 石戸)
今起こりつつある変化を着実に進めていくということと、さらに次のビジョンをつくるということをDiTTとして取り組んでいきたいと思います。それでは、シンポジウム終了とさせていただきます。
本日はありがとうございました。