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デジタル教科書・教材の普及推進について

長きにわたり社会、文化、経済が発展する源は「人」です。少子高齢化の進む日本は、少なくなる若年層の能力を高め、その活動領域を拡げていくことが最重要課題です。教育の水準を高め、機会を拡げるための社会投資が求められます。
決め手は教育の情報化です。世界中とつながって、文字、音声、映像、データを駆使して知識を得て、考え、創作し、表現する手段が手に入るようになりました。高度な論理力や思考力を養うだけでなく、創造力や表現力、コミュニケーション力を育むには情報技術の活用が不可欠です。
デジタル化の進展により、どこに住んでいても、豊富な知識に接することができ、地球上の人たちと交流することができるようになります。

しかし、学校の情報化は遅れています。2008年9月のメディア教育開発センター資料によれば、日本の学校におけるコンピュータ1台当たりの児童生徒数は7.3人ですが、米国では3.8人、韓国では5.7人、英国では初等学校で5.2人となっています。校内LANの整備率、高速インターネット接続率も他の先進国に比べて遅れをとっています。
いえ、これは日本だけの問題ではありません。教育や学習の手法は未だ発展途上。MITシーモア・パパート教授は、「19世紀の外科医が現在の手術室にやって来ても何一つ仕事ができないだろう。だが、19世紀の教師がやって来たら、きっと何とかやっていけるだろう。教授法はこの150年で変化していないからだ。」と指摘しています。
農耕社会から工業社会に切り替わる際、明治政府は義務教育を導入しました。工業社会から情報社会に切り替わる今、それにふさわしい教育が求められます。

ただ、ここにきて情報技術は改めて大きく展開し始めました。パソコンやタブレットPCを使った授業が増えるとともに、スマートフォン、携帯ゲーム機、さらには電子ブックなど学習ツールとして期待できるデバイスが登場しています。アメリカでは子ども向け100ドルPCを開発・普及させるプロジェクトも動いています。
パソコン向けにデジタル様式の教科書を作成したり、スマートフォンを学生に配布したりする大学が現れています。小中学校でも電子黒板が整備されたり、そのための教材を教科書会社が作ったりしています。海外には電子ブック向けの教科書を作っている大学もあります。韓国、シンガポール等の小学校でもさまざまな取組が見られます。

日本に最先端の教育環境を整えましょう。情報化の遅れを取り戻し、豊かな教育を子どもたちに授けましょう。これは恐らく詰め込み・暗記型の教育から、思考や創造、表現を重視する学習へと教育の中味にも変化をもたらすことでしょう。
文部科学省は4月22日、「学校教育の情報化に関する懇談会」を開催し、総合的な推進方策を検討することとなりました。また、昨年末、総務大臣は「デジタル教科書を全ての小中学校全生徒に配備(2015年)」という目標を発表しました。
ここでいう「デジタル教科書・教材」とは、教科書や教材といったコンテンツやアプリケーションだけでなく、それを使う端末、機材やソフトウェア環境、ネットワーク・システムなどを含む「デジタル技術による総合的な教育・学習環境」を言うものと解釈します。

全ての子どもたちがデジタル環境で学び、つながり、創り出す。しかも、デジタル教材の活用を増やして地球環境にも寄与する。私たちはこの構想を支持します。
そのためのデジタル教育環境を整えましょう。その上で使われる教科書・教材の開発・普及を図りましょう。そして、それを用いた授業を実施していきましょう。
成長戦略が求められる日本は、情報立国を急がなければいけません。過去数十年でほぼ唯一伸びているIT産業を成長のエンジンとすべきです。本構想はこれを推し進めるものでもあります。

このため、私たちは、その開発及び普及を推進する活動を進めることと致しました。ご理解、ご協力をお願いする次第です。

2010年5月

「デジタル教科書教材協議会」発起人

陰山 英男
〈立命館大学教育開発推進機構教授〉
川原 正人
〈NPO 法人CANVAS 理事長、元日本放送協会会長〉
小宮山 宏
〈株式会社三菱総合研究所理事長 東京大学総長顧問〉
孫 正義
〈ソフトバンク株式会社代表取締役社長〉
中村 伊知哉
〈慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授〉
樋口 泰行
〈マイクロソフト株式会社代表執行役 社長〉
藤原 和博
〈東京学芸大学客員教授〉

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